Posted by 吉田穂波
女性防災ネットワーク・東京 呼びかけ人、産婦人科医、神奈川県立保健福祉大学教授
*****
西日本大水害で避難中の皆様へ
このたびの水害では、大事なものを失い、日常生活がおびやかされ、苦難を強いられていることと思います。一日も早い復興をお祈り申し上げます。
*****
災害の規模と言えば、つい、死亡者数や行方不明者数で判断されがちです。しかし、死亡者数が少ないからと言って被害が甚大ではないかと言えば、そうではありません。
人道支援の国際基準である「スフィア・ハンドブック(日本語版277頁、https://www.refugee.or.jp/sphere/)」にまとめられている各種災害の影響を見ると、他の自然災害に比べて洪水では死者、重傷者は少ないということが分かっています。ですから、洪水や水害においては、生命を脅かされる危険性よりも、その後の物資不足による健康被害や住居問題が占めるダメージの方が大きいと言ってもいいでしょう。
表 各種災害の影響比較表(「スフィア・ハンドブック」より抜粋)
水害であっても、ダメージのいかんにかかわらず、被災地で生活していた人々は皆、は多大なストレスを経験するため、避難生活が長引くにつれ、特別なメンタルケアとカウンセリングが必要です。やっと生き延びた、助け合って生き抜こう、と感じたのもつかの間、被災者同士の格差が生じ、先の見通しが立たず、疲労と困窮と不安から不調がみられ始めるのも、災害から一週間以上たってからのことです。
とりわけ、児童については人格形成への影響が大きいため、格別の配慮が求められます。東日本大震災における世界銀行の調査では、多くの避難所で、妊産婦・高齢者および特別な配慮を必要とする人々は、他の被災者と共通の施設の利用を強いられ、ストレスを抱えていたことが指摘されています。
https://www.gfdrr.org/sites/default/files/publication/knowledge-note-japan-earthquake-3-6-jp.pdf
東日本大震災の被災地では子どもにも恐怖心、不安感や混乱などの影響を引き起こし、妊産婦や乳幼児のプライバシーが守られないことによる健康被害がおこったことが分かっており、妊産婦、乳幼児、高齢者、障がい者、外国人など集団生活が大きな負担となる人々がいることを忘れない避難所運営が求められます。
慣れない避難生活が長期化することにより、子育て世代や妊産婦さんの疲労・困窮が表面化するのが災害3日目~1週間以降です。
東日本大震災後に作られた「大災害と親子のこころのケア-保健活動ロードマップ」における調査では、命からがら逃げ伸びて避難した後、避難生活の長期化により子どもの食生活、発達や退行現象などの問題行動や過剰反応、保護者自身の健康上の問題など様々な課題が出てきたことが明らかになりました。
0コメント