Posted by 吉田穂波
女性防災ネットワーク・東京 呼びかけ人、産婦人科医、神奈川県立保健福祉大学教授
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西日本大水害で避難中の皆様へ
このたびの水害では、大事なものを失い、日常生活がおびやかされ、苦難を強いられていることと思います。一日も早い復興をお祈り申し上げます。
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震災が起こる度に、日本人が経験から学んでいないということを痛感したことがあります。2011年の東日本大震災後に、1996年の阪神・淡路大震災の経験から兵庫県産婦人科学会の大橋正伸先生たちがまとめた「阪神・淡路大震災のストレスが妊産婦及び胎児に及ぼした長期的影響に関する疫学的調査」を読んだ時のことです。
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/directory/eqb/book/10-119/index.html
編集後記には
「わが国では相変わらず自然災害の予知に重点が置かれ、災害後の国民の立ち直りについては『各自道を選べ』と八甲田山・冬の行軍的な考えがいまだにあるようです。はたして妊産婦が欧米諸国のように再起できる支援を受けることが出来ていたか」
と書かれていました。
ここにまとめられていた妊婦さんたちに必要な支援を見てみましょう。
妊産婦の切実な声・10の願い
- 「おなかの赤ちゃんは大丈夫ですよ」の一言が聞きたかった
- どの病院へ行けばよいのか途方に暮れた
- 転院するにも、交通手段はなく長時間かかった
- 救護所で妊婦健診をして欲しかった
- 陣痛が起ったが救急車が来てくれなかった
- 転院先で再度血液検査をされて高くついた
- 罹災証明書で、妊婦健診料金を公費負担して欲しかった
- 粉ミルク、水、紙おむつを優先配給して欲しかった
- 行列や水運びに苦労した
- 出産後、帰る場所がなかった
阪神淡路大震災の教訓をもとに、兵庫県産科婦人科学会が提言した10項目はこちらです。
災害時の妊産婦の取り扱いに関する十カ条の提言
- 母子健康手帳に災害時の対応について記載しておく
- 母子健康手帳の出生届に被災状況の記入欄を設ける
- 母親学級に災害時の対応についてのカリキュラムを義務付ける
- 地区ごとに妊婦健診の場所を決めておく
- 地区の産科医師、助産師、保健師は交替で健診を行う(日ごろからの広域における顔の見える関係・連携作りのため)
- 近隣府県の産科医師の救護班を早期に投入する
- 移動できる妊産婦は可能な限り被災地域外へ移す
- そのための搬送手段を確保する
- 災害時の妊産婦検診を公費負担とする
- 出産後の母児の受け入れ先を確保する
東日本大震災後の調査でも同じようなニーズが挙げられています。震災後の調査に基づいた事実と根拠があるのであれば、妊婦さん及び乳幼児を連れた家族を強制的に避難させ、プライベートの保たれた家族スペースを提供することが、現代の災害における私たちの標準的な対応なのではないでしょうか。
医学の分野で、大災害が起こった際お母さんの心の傷が、あるいは妊産婦さんの受けた恐怖や不安が子どもや母子関係についてどのような影響を与えるか、研究成果としてまとめて行く中で、「子供を生み、育てていく」上で必要なサポートが「疎」になる瞬間が、実は震災前から存在していたと気づきました。妊娠・出産・子育ては、親子にとっては一連の流れですが、専門領域や担当分野による“壁”のせいで子供や家族がつまづくことがあったのです。この問題を解決するため複数の異なる分野の専門家が知恵を出し合い家族をサポートする姿勢が、被害をこうむった土地の再生の歴史に大きな影響を与えると考えられます。
医療機関の方や保健師さん、助産師さん、地域のママサークル、保育園、幼稚園など、様々な立場の方々が顔を合わせ、災害後の妊産婦さんや子どもたちのサポートに関する勉強会を開くのもいいでしょう。そこから、子育て世代向けの集まりやイベント、交流会、相談会に発展して行けば、同じ状況にいる妊産婦さんや子育て中の方々が集まる場所になり、お互い元気をもらえる機会になります。
ⒸJapan Committee for UNICEF – Emergency Response Programme in Miyagi
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