【集中連載】災害時の女性や子育て中の方々へ④ <ご自分の気持ちや感情にフタをしないで~こんな時こそ、受援力!>

Posted by 吉田穂波

女性防災ネットワーク・東京 呼びかけ人、産婦人科医、神奈川県立保健福祉大学教授


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西日本大水害で避難中の皆様へ

このたびの水害では、大事なものを失い、日常生活がおびやかされ、苦難を強いられていることと思います。一日も早い復興をお祈り申し上げます。

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子育て中の保護者や養育者は、なかなか弱音を吐くことが出来ません。自分のことを後回しにし、過重労働に陥りやすいですし、育児、家事、家族のケアは当然の仕事ということで理解や同情が得られないためです。また、調子を崩しても「ひよわ」「怠けている」とみなされるのではないかと人の目が気になってしまいます。

(参考:宮地尚子「被災支援者に心のケアを」読売新聞1995.4.1)

こんな時だからこそ、「受援力(助けを受け入れる力)」の出番です。

あなたの役に立ててうれしい人はたくさんいます。

物資、情報、声掛け、気配り、お金・・・色々な形で助けられると、自分が弱くだめな人間のように感じてしまう人もいるかもしれませんが、災害を体験した皆さんは、私たちの先生です。

日本中、いつどこで皆さんと同じような大災害に遭うか分かりません。

そのような中、私たち、まだ災害経験のない多くの人々が、どのような備えをしておくべきなのか、どのような甘い認識があるのか、絶対に失いたくないものは何か。皆さんは、私たちにはない実体験があり、私たちにはないものが見えています。その経験から私たちが学ばせて頂くことがたくさんあります。皆さんが生き延びることが私たちの喜びであり、願いです。

だからこそ、どんな支援の機会も逃さず快く受け入れ、生き延びて欲しいのです。

サポートを無料で受けて申し訳ないと思っている方は、自分の善意が受け入れられて喜んでいる人がいるということを思い、誰かの力になりたい人を元気づけてあげていると発想の転換をしてはどうでしょうか。

そして、とにかく生きて、私たちに教えて下さい。

どんなことに困って、どんなことを後悔したのか。

災害大国に住んでいる私たちが、どんな準備をしなければならないのか。

皆さんは、私たちの大事な先輩です。

だから、自分の弱い気持ち、ネガティブな気持ち、嫉妬、意地悪、抑うつ感にフタをせず、出来るだけ書いたり話したりして、これも私の大事な一部、と認めてあげて下さい。

私が東日本大震災の後、被災地で妊産婦さんたちと接する中で、支援したい気持ちをいっぱい抱えて被災地に来る医療従事者やマスコミの流す情報に戸惑う姿が見られました。もちろん、すべてを失った被災地の方々は、どんな援助でもウェルカムです。しかし、彼らは、非常に凄惨でドラマティックで、まるで映画の中の出来事のような状況で苦しむ悲劇の被災者ではなく、普通の生活をする普通の人なのだということを、私は災害当初から感じていました。水害では重傷者は少なく(連載第一回 表1参照)、生き残った方々は基本的に元気な普通の方々です。元気、といっても健康かというとそうではなく、大きな怪我や高度な治療を必要とする重篤な状態ではないけれど、気になることがあれこれある、それも、医師の診察や検査が必要な状態というよりは、相談できる人が欲しいという状態でした。そして、この程度の健康トラブルだったら我慢しなければ…と不調や不安をため込み、気持ちの落ち込みに繋がって行ったのです。

特に、赤ちゃんや小さなお子さんがいる方は深刻です。子どもがうるさい、赤ちゃんの夜泣きで眠れないという周りからの苦情を受け、自宅が半壊状態でも住める人は、長期にわたる避難所生活に耐え切れずに自宅へ戻ります。するとそれまでもらえていた援助物資や炊き出しの食事がもらえず、震災前までのママ友や地域のネットワークも失われ、孤独を感じ、ふさぎこんでしまいます。テレビに映る被災者の姿と自分の姿を重ね合わせ、「ああいう方に比べれば私なんてまだまし」と思う一方で、被災地以外の人が抱いている被災者へのイメージに押しつぶされそうになり、心の中では「自分は普通の人なんだ」と悲鳴をあげていたのです。

被災地で暮らす方々が「普通の人」であるからこそ、いろいろな形で支援してくださるのは、とてもありがたい、と思いつつ、いろいろな人からの支援を受けることにためらいを抱くことがあるかもしれません。人々の善意がわかっているからなおさら断れないのです。

普通の方にこそ、普通の相談先が必要です。 「急を要することではないから」と言って、湿疹や腰痛をがまんしている妊婦さん。わざわざ遠くからやって来てくれた支援者にこんなつまらないことは相談できないと、震災で取りやめになった手術や治療を先延ばしにしている高齢者。子どもが転んで手を切った、咳をして苦しそう。いつもなら気軽に受診したけれど、こんなことで相談できない、あの人たちはもっと大変な重病人のために来てくださっているのだから・・・。と遠慮してしまう人がいます。 でも、普通の日常で起こる痛みや傷も、その治し方も、特にドラマティックで大騒ぎされるようなものではなく、静かな普通のものなのです。

「我慢するのが美徳」を通り越し、「我慢できないのは恥」と教え込まれてきた私たちは、こういう時こそ、身近で気軽に相談できるような存在がいれば安心です。相手が医療従事者でなくても、話すだけで症状が軽くなるということがあります。「支援者」「被災者」と線を引かず、同じ被災者として、どんな悩みや困りごとを抱えているのか、どこに相談すればよいのか、頼ってみることでお互いの距離が縮まり、相手もこちらに相談しやすくなります。

相談する際のコツはたった3つ。


1. 相手の名前を呼ぶ

誰でもない、あなただから話したい、という相手個人への尊重の気持ちを伝えます。こうして打ち明け、相談することは、相手に対する最大の信頼であり尊敬であり承認であるという気持ちが伝わります。

2. 相談する前に、日頃のつきあいにお礼を言う

普段からやり取りさせてもらったり挨拶をしてもらったり気にかけてもらったり。物やお金ではない、相手の存在があることに対する感謝の気持ちを伝えます。

3.  悩みや困りごとを話した後もお礼を言う

何も解決しなくてもいいのです。自分のために時間を割いてくれている、注意を向けてくれていることで助けられている、ということを感謝します。


これで、あなたも、独りで抱え込んでいた悩みに向き合うことが出来、相談された相手も、あなたに頼りやすくなるでしょう。

人は、独りで頑張るのではなく、誰かに弱さをさらけ出し、ネガティブな面を見せ、仲間を作る方が強くなれます。

気になることがあったら、今日から、家族に、知人に、そばにいる人に、ちょっと相談してみませんか。

人に頼ることで、困っている人の気持ちが分かり、困っている人の存在に気付くことが出来るようになります。

そして、いつかは自分が助ける側に回ればいいのです。

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